いなげ司法書士事務所
Q1借入金を一度完済して、期間をおいて再度借入した場合でも一連計算できますか?
完済したことにより発生した過払い金を新たな借入金債務に充当できるかどうかは借入れが基本契約に基づく場合と基本契約が締結されていない個別契約(証書貸付け)の場合で異なります。そこで、以下のQでは最初の借入れから債務をいったん全額返済するまでの取引を第1取引、新たな借入れを第2取引として4つのパターンに分けて解説します。

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Q2第1取引開始時に基本契約を締結し、その基本契約が第1取引および第2取引を通じて1個の場合の過払い金の充当は?
最高裁平成19年6月7日判決は、借入金額・返済方法・返済金額、利息の計算方法が定められた基本契約が締結されている場合は、借入限度枠の範囲で繰り返し借入れをすることができ、債務の弁済は借入金全体に対して行われるものであり、基本契約は「弁済当時他の借入金債務が存在しないときでもその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含んでいる」と判示しました。つまり、基本契約が1個であれば、途中で何年の空白期間があっても一連計算できるということになります。なお、この判決が示した基本契約にはクレジットカード契約はもちろん、ほとんどすべてのサラ金の借入限度契約が該当します。

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Q3第1取引と第2取引開始時にそれぞれ基本契約を締結した場合(基本契約が2個以上ある場合)の過払い金の充当は?
最高裁平成20年1月18日判決は、第1取引の債務を完済して過払い金が発生し、その後新たな借入れをするにあたって第2取引の基本契約が締結された場合、新たな借入金債務に過払い金は当然に充当されないと判示しました。しかし、同判決では過払い金を新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するなどの特段の事情があれば過払い金は新たな借入金債務に充当されるとも述べています。なお、取引の途中で基本契約書が何回か作成されていても、取引に空白期間がなく前後で取引が途切れていなければ、いわゆる契約の「切替え」にすぎず、基本契約の内容を変更しただけなので1個の貸付取引であるといえます。よって、基本契約が数回締結されていても、それが契約の切替えに過ぎない場合は一連計算できることになります。

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Q4Q3の場合に充当が認められる特段の事情とは何ですか?
最高裁平成20年1月18日判決で示された過払い金の充当の合意等が存在することの特段の事情を判断する事項は以下のとおりです。
  • 【1】 第1取引の基本契約に基づく取引期間の長さや第2取引の基本契約までの空白期間の長さ
  • 【2】 第1取引の基本契約の契約書の返還の有無
  • 【3】 ATMカードの失効手続の有無
  • 【4】 空白期間における貸主と借主との接触の状況
  • 【5】 第2取引の基本契約が締結されるに至る経緯
  • 【6】 第1取引と第2取引の各基本契約における利率等の契約条件の異同
  • 【7】 その他等
同判決では特段の事情を判断するための材料は示されたのですが、貸主と借主の間で過払い金の額に争いがあるために和解に至らなければ、結局のところ借主が貸主に対して過払い金返還請求訴訟を起こす必要があり、訴訟をしてもなお和解に至らないのであれば、最終的には裁判所の判断を仰ぐことになります。

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Q5基本契約は締結されていないが借入れが反復・継続している場合の過払い金の充当は?
最高裁平成19年7月19日判決は、基本契約が締結されていない個別契約(証書貸付け)で複数の貸付けが行われた場合、各貸付は「貸付けの切替え及び貸増しとして、長年にわたり同様の方法で反復継続して行われていたもの」で1個の連続した貸付取引であり、このような場合は、当事者は一つの貸付けを行う際に、次の貸付けを行うことを想定しており、複数の権利関係が発生するような事態(第1取引の過払い金が第2取引の貸付けに充当されずに残ってしまう事態)が生ずることを望まないのが通常であることから、過払い金を「新たな借入金債務に充当することを合意している」と判示しました。つまり、個別契約(証書貸付け)の場合でも借入れが反復・継続している場合は一連計算できることになります。なお、この判決では途中で約3ヶ月半の取引の中断がありましたが一連計算が認められました。

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Q6基本契約が締結されておらず、借入れも反復・継続していない場合の過払い金の充当は?
最高裁平成19年2月13日判決は、基本契約が締結されず、消費貸借契約が2系列ある事案において、一つの貸付けに際して、第2取引の貸付けを想定していたとか「過払い金の充当に関する特約が存在するなどの特段の事情のない限り」、過払い金は新たな貸付金債務に充当されないと判示しました。しかし、この判決では充当の特約に加え、基本契約が締結されているのと同様の貸付けが繰り返され、第1の貸付けの際に第2の貸付けが想定されるというなどの特段の事情があれば充当されるとも述べていますので、決して充当の道を閉ざすような判決ではありません。なお、この判決は2つの証書貸付けによる取引が同時並行している事例であり、貸付取引が1系列であるケースには適用されません。

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